気の合う3人の共通項

01気の合う3人の共通項

まず、皆さんが知り合われたきっかけは? 新村もともとは袋井の茶業青年部で顔見知りになりました。3人ともいろいろと境遇が似ていたので、何となく気が合って。僕は30歳まで東京で不動産業などの仕事をしていて、今の仕事に転職してから8年になるけど、2人とも僕と同様に元々は今とは全く畑違いの仕事をしていたんだよね。
安間僕は以前、高校教師をしていて、その後、東京でライターの仕事をしていたんです。その頃に中学校の同級生だった妻と再会して、妻の実家のお茶農家を継ぐことになり、袋井に来て4年になります。
森下僕は大学を卒業してから名古屋の家具店で4年間働いた後、磐田市に戻ってきて建築の仕事に3年間就きました。その後、妻の実家の茶業が人手不足なので手伝うことになり、4年が経ちます。
お互いにそれぞれの人物評は? 森下コウスケさん(安間)は茶業に入るまでにいろいろな経験をしているので、農家としての考え方とビジネスマン的な考え方の両方ができる人。いろいろな顔を持っていながらも、1つのことに集中できるところがすごいと思いますね。テツオさん(新村)は自分のスジを通す人で、無駄なことは一切しないし、何でも徹底できる人。2人とも僕にとっては大先輩です。

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安間テツオくんは何が1番効果的かをパッと見抜いてすぐ行動するタイプなので、すごく頼りにしています。どこに行ってもまず面白そうなものを探して発見するのが得意なんですよ。それで、面白いと思ったらすぐに行動に移して、問い合わせや交渉を始める・・・いわゆる起業家タイプの人間だと思いますね。だからモンゴルに一緒に行った時もすごく助かりました。ジュン君(森下)は誰とでも上手に付き合えて、彼がいるだけで場が和みます。それに勉強熱心で、お茶のこともすごく詳しいよね。
新村ジュンはね、人当たりも良いし気楽なヤツだよね。だから何でも気軽に聞けるし、何でも隠さず教えてくれる。安間はね、みんながどうしようって迷っている時に、1人でどんどん変わったことに挑戦しているので、大したものだなといつも感心しています。
森下まぁ、お互い腹を割って話せる関係っていうことですよね。
新村そもそも、僕の話を聞いてくれたり、理解してくれたりする人自体そんなにいないから、お互い変わり者なのかなぁって思うね(笑)。

お茶づくりの魅力

02お茶づくりの魅力

皆さんにとってお茶づくりの魅力とは? 新村良いのか悪いのかわからないけど、いつまで経っても慣れないところが魅力ですね。今日お茶を揉んだら明日は肥料をやって、明後日は農薬撒きと、毎日やることが違うんですよ。忙しい時は1日に20時間程度働くし、その一方で冬場はずっと休みだし。でも、それが僕は好き。毎日やることが違って、仕事に慣れないっていうのが好きですね。

お茶づくりの魅力

安間僕は、何をやるにしてもこだわり派なんですよ。うちみたいに小さい工場だと、手の感覚に頼ってものを作ることが多いんです。今は僕が1人で工場に入ってお茶を作っていることが多いんですが、納得できるようなものが作れると儲けは二の次で、ただそれだけでうれしくなっちゃいますね(笑)。以前は室内で机にかじりついて文章を書いているような仕事だったので、いろいろなことがやれるのは刺激になるし、面白いですよね。
森下僕も今までがインドア仕事だったので、見渡す限りお茶畑みたいな環境のもとで働けるっていうのが気持ちいいし、雨が降ったら休みっていう晴耕雨読的な働き方も新鮮ですね。お茶作りは自分の手次第で全然違うものができるから、葉っぱがいくら良くても作り方を間違えると大損をするし、上手くできれば評価が直接返ってくる。常に気を張っていなければいけない仕事だけど、得られるものもすごく多いし、楽しいですよね。

03これからの茶業を
どう読むか?

業界の現状を踏まえた上で、これからの茶業をどう見据えていますか? 新村今、茶業は潮の変わり目だね。今まで通りのものをぼちぼち作っていても、どんどん淘汰されていってしまう。
安間最近、お茶の需要が減ってきたと言われていますが、ペットボトル茶が増えているので飲む量自体は変わってないんですよね。でも、これからはもっと世の中に合ったお茶づくりを考えていかないと生き残りは難しいと思うので、何かしら新しい動きをしていくことが必要だと思っています。

お茶づくりの魅力

森下茶業は古い産業なので、こと静岡についてはやっぱりちょっと胡座をかいてきたような部分があって、商流も昔ながらのものを引きずってきた面があると思うんですよね。ところが最近景気が悪くなって、農家も問屋も段々危機感を感じ始めた。その一方で、お茶の消費がいろいろな方向に広がってきたから、ようやく農家が前面に出られる時代がやってきたように思うんです。だから、現状に危機感を覚える反面、やり方次第でどうにでもなるんじゃないかという期待感もあります。
安間そうですね。逆に今が大変だからこそ、僕が変わったお茶を作ったり、モンゴルにお茶を持って行ったりしてもあまり反対されないんですよね。昔だったら、「今のままで充分に稼げるからそんなことをする必要は無いよ」っていう感じだったでしょうけど、今は「とりあえずやってみな」と言われることが多いですからね。

04袋井という
産地のスタンス

袋井市のお茶の産地としての特徴は? 安間袋井市は、静岡県内で最も古いお茶の産地らしいんです。歴史が古いということは、元々この地域の環境がお茶作りに非常に適していたということになりますよね。ただ、袋井にはお茶屋さんがないんですよ。そのため、袋井茶として売られることが殆どないので、必然的に発信力が弱いんですよね。例えば袋井市内のイベントにお茶を出展しても、「袋井ってお茶を作っているんですか?」って言われるレベルなんです。それこそジュン君の会社なんかは全国の品 評会で大臣賞や産地賞を受賞しているのにね。
森下僕の会社では森町や掛川市にも出荷しているけど、掛川市で最終加工をしたら「掛川茶」っていう名称になる場合もあるし、袋井市との兼業という扱いの場合もあるし、実際のところいろいろなんですよね。
新村そもそも県外では「袋井ってどこ?」っていう感じで、まち自体に知名度がないからね。
安間そうですね。多分これからは産地として売っていくよりも、企業名や個人名で売っていく方向になるんじゃないかな。

05モンゴルへの進出

モンゴルへの進出を決意したきっかけは? 安間僕が東京で高校教師をしていた当時の教え子にモンゴル人の留学生がいて、以前から「モンゴルと日本をつなぐ仕事がしたい」とよく話していたんです。その後、僕が茶業の仕事に就いてから、彼が「モンゴルにお茶を持っていくことを考えているんですが、どうですか?」と相談してきたんですね。そこでいろいろ検討したんですが、自分だけでは無理だけれど仲間を集めれば何とかなるかもしれないと思って、青年部の仲間に声をかけたら、この2人が賛同してくれたんです。
では、モンゴルへの進出の目的は? モンゴルでは日本製品の価値がすごく高いんですよ。それに、最近国内で成人病が蔓延していて、健康に良いものを求める傾向が強いので、日本茶はちょうどそのニーズに合致すると思うんです。袋井のお茶をモンゴルで売って、モンゴルから発信してもらえたら、「袋井茶」ブランドが逆輸入の形で日本国内にも広まるかもしれないという期待もありました。実は、日本茶の輸出はあまり上手くいっていなくて、静岡県内でも全くできていない状態なんです。そんな状況下でもし僕たちがモンゴルとの販路を開拓できたら、大きな宣伝になりますよね。まずはそれが一番の目的です。

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現状でのモンゴルでの日本茶の認知度はどの程度ですか? 安間大手のデパートに行くと、お茶の販売コーナーに一応日本茶が置いてありますが、知名度もないし、殆ど売れていない状況です。モンゴルの飲み物には砂糖が入っているのが当たり前なんですよ。日本製のペットボトルも現地で沢山販売されていますが、どれも砂糖入りです。だから糖尿病の人がものすごく多いんです。
森下モンゴルは食生活が日本と全然違って、とにかく主食が肉とジャガイモで、野菜を殆ど食べないんですよね。飲み物にしても味が濃くて甘いものが主流だしね。
安間「日本の主食が米だとして、モンゴルは何ですか?」と現地の人に聞いたら、「肉ですね」っていう答えが返ってきたんですよ。最近では近代化が進む一方で昔ながらの食事を摂り続けてきた結果、糖尿病などの成人病を患う人が増えてしまい、社会問題になっています。
新村平均寿命だって60歳くらいでしょ。
安間そう、だから今後は国民の健康を考えると無糖の飲み物が絶対に必要になってくるだろうという話を現地の人たちともしているんです。

今後の計画は? 新村昨年は1年目ということで、まず現地でリサーチを行い、2年目の今年は販売会を行う予定です。そして3年目の来年には本格的に販売を手がける計画です。ゆくゆくは袋井茶をモンゴルに輸出して、現地でペットボトル茶を作って売るというスタイルを確立できれば一番理想的ですね。
安間去年、実際に3人でモンゴルに視察に行って現地の人にお茶を試飲してもらい、意見を聞いたんですが、どうも現状のままでは日本茶の旨味や渋味が向こうの味覚と合わないんですよね。だから今、僕たちが検討しているのは、一般の人々に日本茶を浸透させるにはどんな商品が良いのかっていうことなんです。例えば、フレーバーを付けるとかね。ですから今年はいろんなパターンの試作品を現地で試飲してもらい、その結果を参考にしながら飲料メーカーやデパートと交渉をして、来年の商品化と販売につなげていきたいと思っています。2020年には東京オリンピックで外国人が大勢日本にやってくると思うので、外国人に対してのお茶のアピールの仕方や販売ノウハウといった面でも、モンゴルで得た体験が参考になるんじゃないかと思いますね。

06茶業の未来は
ボクらが創る

モンゴルへの進出を機に、袋井という産地自体も変えていこうという考えはありますか? 森下変えていこうっていうよりも、変わるしかないですよね。僕らが変わったら、周りも変わっていくかな…という想いでやっている面もあります。
安間そのきっかけがモンゴルで正解かどうかはわからないけど、まず第一歩を踏み出すことが大切ですよね。国内での取引においても、若い後継者がいるかどうかということが重視される傾向がありますし、その後継者がどんな活動をしているかということもしっかりと観察されているので、こうして新しいことに挑戦していること自体、事業者として評価してもらえるんじゃないかと思いますね。
新村茶業の潮の変わり目に、既成概念を取り払い、どこまで新しい発想を実行に移していけるのか。とにかく、これからどう攻めるかが勝負だと思っています。